昨日は友人たちと一緒に、黒澤明の「天国と地獄」を観てきた。英語題名はなぜか「High and Low」。 会場はシティのSurry Hillsにある「Golden Age Cinema and Bar」という、60席しかない小さな映画館。ここでは新作中心の大きな映画館ではかからないような、世界各国の名作をセレクトしている。日本映画では他に、今敏の「パーフェクトブルー」を上映予定で、もうチケットは売り切れである。 シアターの隣はレトロな雰囲気のバー・レストランで、オーダーしたものを座席に持ち込んでもOKなのがありがたい。 僕が「天国と地獄」を観たのは、たぶん50年くらい前だが、結構細部まで憶えているものだ。素晴らしい役者・映像・音楽、クライム・ストーリーとして、ものすごく良くできている。映画の面白さを堪能できる。もちろん有名なラスト・シーンは何度見ても衝撃的だ。 「天国と地獄」が公開されたのは1963年。戦後の復興期の日本では、もうすでにあからさまな貧富の差が生まれていた。バラックとドラッグにまみれた汚い町に住む犯人は、『俺は生まれてからずっと地獄にいたんだ』と語る。丘の上の大邸宅を見上げる暮らしの中で、彼の鬱屈は憎悪へ変化する。もうどうでもいい、と、desperate(絶望的な、自暴自棄の、やけくそ)になり、やがて爆発する。 このどうしようもなく圧倒的な格差問題は、近年の映画「ジョーカー」や「パラサイト」、漫画「闇金ウシジマくん」でも描かれていた。 僕らは今もまだ、あの閉ざされたシャッターの前で、なすすべもなく座り続けているようだ。