
Jim Loach監督の映画「Oranges and Sunshine」は、Margaret Humphreysという一人の英国女性が暴きだした、オーストラリア(というか英国)の隠された黒い歴史だ。
1930年代から1950年代、英国政府は孤児たちをオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アフリカなどへ密かに送り込んでいた。その数150,000人。
「オーストラリアへ行ってみないか。毎日陽が輝いていて、朝食にはオレンジをもいで食べられるんだ」と甘い言葉で連れて来られた子供たちを待っていたのは、劣悪な環境での強制労働と虐待だった。
貧困や不義など理由でわが子を手放さざるを得なかった母親たちは、より良い家庭にもらわれていったと信じていたのに。
この英国児童移民プログラムの背景には、白豪主義もあっただろうが、もっと単純な経済原則が働いていたと思う。英国政府にとって、孤児たちを植民地へ捨ててしまうのが、一番コストが安くすむのだ。英国内で養育や教育にかかる費用をカットできるし、現地では安価な労働力として使える。奴隷制度はまだ生きていたのだ。
そんな事実を知ったマーガレット・ハンフリーズは、Child Migrants Trustを設立し、故国に棄てられた子供たちの親を探すため奔走する。一方、彼女が協力を求めた英国政府機関の官僚たちは、そんな政策があったことさえ認めようともしない。
政府は保身を図るばかりで自らは動かないという絶望と、たった一人でもそんな状況を変えることができるという希望、そして孤児たちの深い悲しみとがないまぜになった、優れたドキュメンタリーだ。