
「Incendies(アンサンディ)」はフランス語で、火事・焼け焦げた/燃え尽きた/焦土と化したモノ、という意味。
レバノン生まれでカナダへ亡命してきた劇作家Wajdi Mouawad(ワジディ・ムアワッド)の原作を、同じくカナダ人のDenis Villeneuve(デニス・ヴィルヌーヴ)が映画化した。
以前、映画館で予告篇を見た時、こんなストーリーだと思っていた ― 双子の姉弟の母が急死し、不思議な遺言を残す。死んだとされていた父と、行方不明の兄を捜して、母の手紙を渡すこと。姉弟は母の故郷である中東へ行き、母の過去に何があったか知る。
あらすじはその通りなのだが、ありきたりのヒューマン・ドラマなんかではなく、あまりにも重くショッキングな映画だった。
冒頭でRadioheadの「You And Whose Army?」が流れる中、中東で少年たちが丸刈りにされている。そしてカナダのケベック州の陰鬱で湿った空気と味気ない灰色の高層アパート。物語は1975年のレバノン内戦時代と現在を行き来する。
これが冒頭のシーン。
http://youtu.be/aUSt9TpIUHo
救いようのない悲劇が明らかになってゆくが、画面から目をそらせない。見終わった後もいろいろなことを考えさせる映画だ。
なぜ、母は、自分の子供達にとって、常人には受け入れがたい衝撃的な真実を知ることが必要だと思ったのだろう。「さもなくばあなたたちの心は休まらない(your mind will never be at paece)」
誰にも知られない秘密として自分の中に抱え込んで死んでいくこともできたのに、なぜ? それを知らされてしまった子供たちはこれからいったいどうするのだろう?
そして、なぜ、母はこんな凄惨な目にあっても、「一緒にいるのが一番いい(nothing more than being together)」と言えるのだろう。母の無償の愛?
悲惨な刑務所で過ごした15年間、悲鳴と銃声の中、彼女はいつも歌を歌っていた。
Radioheadを使うなら、最後の墓場のシーンは「Exit Music」にしてほしかったな。