2020年06月08日

大海の一滴

今日、ネットニュースで、The Mirrorに載ったJohn Lydonの記事が流れてきた。
奥さんのノラ(Nora Forster)はアルツハイマー病を患っている。認知症が悪化した彼女を、ジョンはfull-time carerとして自宅で看病しているそうだ。
Johnny Rotten is his wife Nora's full-time carer as her dementia worsens

ジョン・ライドンがノラと出会ったのは、彼がJohnny RottenとしてSex Pistolsをやり始めた1976年の頃だ。
ドイツ人のノアは娘のアリを連れてイギリスへ移住し、クリス・スペディングと出会った。ピストルズのデモテープを作ることになるクリスは、ノア一家に彼らを紹介した。
ノアは貧乏なパンクス達を家に寝泊まりさせ、アリはクラッシュのジョー・ストラマーにギターを教えてもらったりしながら育ち、The Slitsを結成した。
後年、ジョンとノラは、乳がんになってしまったアリを看病し、アリの子供たちを引き取って面倒を見ていたが、アリは10年前に死んでしまった。

ジョンはノラに一目惚れし、1979年に結婚した。この記事によると『火花が散った。即効で惹かれた』そうだ。
僕はジョンと同じ1956年1月に生まれ、ヘレンはノラと同じく1942年に生まれた。
23歳の時に10歳以上も年上の女性と結婚するなんて僕には想像もできなかったけれど、ジョンはまったくためらわなかった。

ピストルズを辞め、PILとなって発表した第三作目「Flowers of romance」は歴史的な傑作だった。
一曲目の「Four Enclosed Walls」を聴いたときの衝撃は今でも憶えている。
不思議なドラムのリズムと魂の奥底から吹っ飛ぶ声に、心身を揺さぶられた。


ジョンはノラの記憶障害が日に日に悪化していると言う。遠くない日にノラの最期が来ることも知っているだろう。
「For me the real person is still there. That person I love is still there every minute of every day and that is my life.」
ジョンは『愛する人がいるから、そこにいる、それが俺の人生だ』と言う。
でも、誰も永遠に生きることはできない。
では誰かの後に生き残ってしまった者はどうする? もうそこにいなくなるつもりなのか?

僕もヘレンのフルタイム・ケアラーだった。ノラの介護をしているジョンの気持ちがよくわかる。一緒にそこにいるだけしかできなかった。
あと一年くらいは、この家や庭を整備したり、ヘレンの遺品を整理したりして、時をやり過ごせるだろう。
でもその後はどうする? 僕がここにいる理由はあるのだろうか?
ジョンはどうするだろう?
今日も時々シャワーが降る寒い一日、久しぶりにPILの曲を聴きながら、そんなことを考えていた。

One Dropで、ジョンは『僕らは皆、大海の中の一滴』と歌っていた。

ならば、一滴であることを、最後までまっとうしようと思う。We are the last chanceなのだから。
PILは「Public Image Ltd.」だけではなく「People In Love」という意味もあるんだぜ、と不敵に笑っていたジョンはきっと生き延びるだろうと思う。
posted by Tats at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | シドニー日記
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