
タスマニアで大きな問題になっているのは森林破壊だ。かつてタスマニアに存在していた原生林の75%は、すでに消失したと言われている。牧畜や林業によって、多くの森林が滅ぼされた。ヘレンが旅した1960年代は現在よりもっとひどく、あちこち禿げ山だったそうだ。その後、植林されたおかげで、今回タスマニアを一周してみた感じでは、40年前よりは緑が戻ってきたように見える。それでもあちこちで枯れ果てた山肌をさらしている所が多い。上の写真のように、有名な景勝地であるクレイドル・マウンテンのすぐそばでも、樹木の残骸が転がる無惨な光景が見られた。
植林して森を回復すると言っても、林業者が1000年をかけて育つ木を植えるはずはない。成長の早い単一種の木だけを育てる大規模な植林と伐採の繰り返しは、土地を劣化させ、そこに生息する動植物の豊かさを奪うのではないか。特に皆伐(Clear Cutting)の場合、伐採した後、化学薬品を撒布して土地を丸ごと焼却してしまう。土とそこに住む生物を焼き尽くすのがいいことだとはとても思えない。伐採された木の多くはペイパー・ミルに運ばれ、細かく砕かれ、チップにされる。そしてそのウッド・チップを買っている大のお得意先は日本だ。
下の写真は、クイーンズ・タウン。ここには古くから銅の鉱山がある。周辺の山々の豊かな樹木は精錬所の燃料として切り倒され、鉱山から出る鉱毒で死に絶えた。100年近く経った今も緑はなかなか回復しない。もうこんな風景を作り出すのはやめようと思う。

それから、もう一つ、悲しいことがある。タスマニアを車で走っていて、ひき殺された動物たちの多さに驚いた。オーストラリア本土で見られる数よりもはるかに多い死骸を見た。美しい風景とは裏腹に、道路には異臭が漂い、車を走らせるたびに気が滅入る。ほとんどは夜行性の動物たちで、ポッサムやワラビー、そしてタスマニアン・デビルやエキドナまでが犠牲になっている。もしタスマニアを車で回るなら、夜には運転しないでいただきたい。暗い中飛び出してくる小動物を避けることはまず不可能だ。下の写真はちょっとグロなので、載せるかどうか迷ったが、ひき殺されたタスマニアン・デビル。道の真ん中に転がっていたので、車を停め、道路の脇へ移動してやった。そうしないと車に挽きつぶされて辺り一面醜いピザ状の悲惨な様相になる。

かつてこの島にやってきたイギリス人たちは、森を焼き払って本国から持ってきた牧草を植え、原住民であるアボリジニをすべて殺し、タスマニアン・タイガーを絶滅させた。流刑地の中の流刑地だったこの美しい島の、これも一つの局面だ。
トラもいたのね。かつては。
そうですよねえ。
デビルはヒトのココロにあるのでしょう。
永井豪のデビルマンを思い出しました。